帰(けえ)りてえが口癖の経理マンのチラ裏

日常に文章を書く時間をもう少し取り入れwrite思って始めました。

儲けが5円になった場合の予定納税から考える財産権と租税法律主義の関係

記事を書くに至った経緯

会長の配信を見ていたら、所得税の確定申告後間もなく1回目の予定納税がありカツカツだという話が出てきました。儲け5円でも取られると言っていましたが、それは減額申請の手続きを取れば何とかなるとして、確定申告による納付以外の納付、いわゆる中間納付等と財産権との関係を考えるのにいい例だと思い、書き始めました。


なので今回は実務的な取扱いではなく、租税の基本的な思想という観点から書いていきたいと思います。(一応各租税における中間納付に相当するものの制度概要を軽く触ります。大半の人には非常にどうでもいいことですが、大半の人は興味すら湧かないこの記事の本旨の前では些末な問題です)


中間納付等の目的

中間納付等には、課税する側とされる側、そして理論上以下のメリットがあるため採用されていると考えられます。

  • 課税する側-租税債権の確定を待たずに金銭を収入できる
  • 課税される側-一回当たりの納税額を小さくすることにより資金繰りを平準化できる
  • 理論的な側面-納税は所得等が発生した都度行われることが理想である

中間納付等の取扱いと、各租税法における中間納付等に相当する規定

中間納付等により支払った額は、所詮は租税債務の確定前に払ったもの、仮払の状態に過ぎないので、その額は確定申告や年末調整といった精算時に年税額等から控除し、控除しきれなかった場合には還付を受けることができます。


所得税-予定納税

前年分の確定申告による納税額を基礎とした金額(=予定納税基準額)が15万円以上であれば、その1/3に相当する額を、その年7/1-7/31と11/1-11/30の2回に分けて納付する義務があります。


ただし、一定の日の現況によるその年分の確定申告による納税見積額が予定納税基準額に満たないと見込まれる場合には、その居住者は税務署長に対し減額申請をすることができます。

法人税-中間納付

内国普通法人は、原則として6月を超える事業年度において中間納付をする義務があります。ただし、前事業年度分の確定申告書に記載した金額を基礎とした金額が10万円以下である場合はその義務を免れます。


中間納付額の計算方法には、①前事業年度の実績を基に計算する方法(前期実績方式)と、②その中間納付に係る6月間を一事業年度とみなして確定申告と同様に計算する方法(仮決算方式)のいずれかを選択することができます。


中間申告書の提出期限までにその提出がなされなかった場合には、前期実績方式による申告書の提出がその提出期限においてあったものとみなされますので、実務上中間申告書を提出することを選択している企業は稀です。

消費税-中間納付

事業者は、原則として1月、3月又は6月の期間において中間納付をする義務があります。ただし、前課税期間の確定申告書に記載した金額を基礎とした金額が24万円以下である場合はその義務を免れます。


中間納付額の計算方法には、法人税と同様に ①前課税期間の実績を基に計算する方法(前期実績方式)と、②その中間納付に係る期間を一課税期間とみなして確定申告と同様に計算する方法(仮決算方式)のいずれかを選択することができます。


中間申告書の提出期限までにその提出がなされなかった場合も、法人税と同様に前期実績方式による申告書の提出がその提出期限においてあったものとみなされますので、実務上中間申告書を提出することを選択している事業者は稀です。

財産権と租税法律主義の関係

財産権って?

財産権とは、人が財産を所有する権利のことです。日本国憲法の規定により国が国民に保障しています。共産主義は貧富の差を排除するための手段として私有財産の制限を支持するものと一般に解されますから、そういった思想との決別が表れているものです。

財産権は、これを侵してはならない。(憲法29①)

租税法律主義って?

国は法律なくして国民に課税することはできないし、国民は法律によらず課税されることはないという原則です。日本国憲法の規定により国が国民に保障し、国を拘束するものです。租税の徴収は国民の財産権への介入に当たるため、租税の徴収は財産権の例外という位置づけとなります。

国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。(憲法30)

あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。(憲法84)

中間納付額の計算方法を選択できない世界線はどうなる?

所得税の予定納税では減額申請が、法人税及び消費税の中間納付では前期実績方式に代えて仮決算方式が認められています。業績等が前期に比べて大幅に落ちた場合でも、その落ちた後のベースで中間納付額を計算できる余地が認められているんですね。


もしこれらの規定がなければ、各納税義務者は、業績が落ちた後等でも不相応に高い税額を中間納付として納めなければならないこととなります。財産権を原則とし、租税の徴収を例外として位置付けた場合、国は例外の領域をできるだけ小さいものに保つ努力をすべきものと考えられます。


事業規模が直前期と同等であれば、前期実績方式による算出金額と仮決算方式によるそれとで大差はないと考えられますから、財産権を不必要に犯していないといえます。一方で業績が落ちた場合等に前期実績方式しか認めなければ、財産権に不当に介入している(※)と判断されかねず、かかる中間申告の規定が違憲と判断されるおそれが考えられます。


したがって、中間納付義務等は租税に係る債権債務の確定前における金銭給付を求めているため、状況によっては財産権への介入が不当に大きくなるおそれを孕んでいるものの、納税者にその算出方法の選択を租税法に規定することでかかる問題の排除を企図することにより合憲性を持たせる形にしているということができます。


---よだん---

納税者が中間納付を意図的に多くした場合は見過ごしてもいい?

ところで、仮決算方式による算出金額が前期実績方式による算出金額より大きい場合にも、中間納付額を前者の方法により計算して差し支えないでしょうか? 国が不当に高額な租税としての金銭給付を要求することが財産権の侵害に当たる(上記※)ことは疑いようがありませんが、納税者の選択でより多額の納税を行う場合は、一見問題がないようにも思えます。


実はこれも問題がある行為と理解されています。というのも、年税額等が中間納付額等に比べ小さくなった場合、納税者にその差額は還付されますが、その差額に一定の割合を乗じて計算した金額を還付加算金として付加されます。


これは納税者が納税を期限までに済ませられなかった場合、利子税や延滞税が課されるのと表裏の関係で、国にも徴収してから還付する日までの期間に応じて利息相当を付加する必要があるためです。


還付加算金の計算に用いる割合は、短期の銀行による貸付金利として財務大臣が告示した割合+0.5%です。令和3年における割合は、令和2年11月30日に告示された0.5%+0.5%で年1.0%となります。計算式からもわかるように、この割合は市中における金利より高めに設定されますので、お金がある納税者にとっては、敢えて中間納付を多めにすることで多額の還付加算金を得ることができます。


還付加算金の収入を租税のマイナスと捉えた場合、これでは納税者間における余裕資金の多寡と、年間通して同程度の事業規模であっても特定の時季に業績が著しく変動する事情の有無という、担税力とはおよそ関係のない所で税負担に差異が生じることとなってしまい、不公平です。


まとめると、納税者の意思で必要以上に多額の中間申告を行うことは財産権と租税との関係性においては問題とならないものの、租税法の基本原則である租税公平の原則に反するといえます。


そのため仮決算方式は、その算出金額が前期実績方式による算出金額を超える場合には選択できないこととなっています。

桐生ココが天音かなたに寝坊罰金として100万円を支払った場合の課税関係は?

去年から在宅で仕事をすることが多くなりました。それでYouTubeを見る機会も増えて、いつの間にかVTuberの動画や配信を追う生活になっていました。


タイトルに掲げた両名は株式会社カバーが運営するホロライブという事務所に所属している方々です。現在では20名を超える配信者が所属しており、デビュー時期等で〇期生のように大まかなカテゴライズがされています。このお二方はともに4期生で、とても仲がよく現在では同居するまでに至り、同居までの過程なども雑談配信で度々取り上げていました。


その中で同居するにはルールが必要だという話になり様々な話し合いがされました。そのルールの中に「配信予定時間に寝坊してそれを他方が起こした場合、寝坊した人はその他方に100万円を支払う」というのが設けられました。


そして先日1月16日、桐生ココさんは8:00から配信開始と告知を打っていたのですが、開始予定から2時間経っても姿を現さないという事態が起きました。「#ゆっくり寝ろ桐生ココ」がツイッターでトレンド入りをしたので、目にした方も多いかもしれません。100万円チャンスかとも思われたこの場面ですが、深夜に及ぶ配信の影響したのでしょうか。同居人の天音かなたさんも起床が遅く、結果としてかなたさんに起こされる前にココさんが放送を開始したため、100万円の支払いに係る権利義務が成立することはありませんでした。


実現こそしなかったものの、もし実現されていたらどういう課税関係が生じたのだろうと考えるにはいい事象だと思い、ジョークの一環として考えてみることにしました。


(2021/1/19追記)
会長の名前で検索した誰かをクスっとさせることができればいいなくらいの思いで書いたものが、まさか本人を始め想像以上に多くの方に見ていただけたようでとても嬉しいです。反響の中で、贈与税はどうなるんだという疑問を持たれている方が何人かいらっしゃいました。私もこの記事を書くに当たって、下記の通り検討していました。

  • 何人たりとも合法的な経済活動を行うことに制限を受けるべきではありません。対価が高額でも、両者が合意した契約に基づき、寝坊を起こすという為す債務の履行と引き換えに稼得する金銭は贈与契約による受贈とは一線を画し、課税所得を構成すべきというのが原則だと考えました。ただし、それが租税回避行為に繋がる場合にはこの限りではありません。
  • 租税回避行為とは、自分が死ぬ前に子にいくらか財産を承継させたいけど、贈与税は高い、といった場合に、じゃあ役務提供を依頼した体にして財産を渡そう、というような動機による行為をいいます。損益通算や金額次第では所得扱いとする方が有利な場面もあるでしょう。
  • ただ、贈与税というのはそもそも相続税の補完税です。死ぬことに基づく財産の移転に税が課されるなら、じゃあ死ぬ前に移転させればいいんじゃないの? を抑止するための税です。お二方はおそらく互いに親族ではなく、不幸があったとしても他方の同居人が相続人となることはないでしょうから、贈与により財産を早期に承継させたいという動機が認められず、租税回避行為とは取られないであろうと思いました。
  • 以上から租税回避行為が見受けられないなら当事者同士の合意を尊重すべきというのと、贈与税扱いだと課税価格から110万円引いて税率テーブルにぶち込んでくださいで終わってしまって面白くないので、所得課税扱いとしました。


所得課税

この約束は、配信機会を確保するため寝坊を防止するという成果が生じた場合にのみ報酬が発生することから、民法の典型契約でいえば請負の性格が強いものと言えます。一方で、類似する他のサービス、例えばモーニングコールと比較した場合に単価が相当に高額である点を留意しなければならないでしょう。


なお、お二方が個人で活動しているか法人成りしているかは不明であるため、両方の場合を考えていきます。


受取人

個人の場合

100万円を、原則として寝坊を防止した時の属する年の総収入金額に算入します。所得の分類は雑所得です。現金主義を採用することについて税務署長から承認を受けている場合には、現実に現金を収入した日の属する年の総収入金額に算入します。


法人の場合

100万円を、寝坊を防止した時の属する年の益金の額に算入します。


両者間で表現は多少異なるものの、100万円が課税所得を構成するという点に変わりはありません。


支払人

所得税、法人税ともに課税所得から差し引く費用等は、原価、販売費・一般管理費、損失の3種に分けられています。この100万円は特定の配信と紐づくものなので、原価を構成するものと考えられます。


個人の場合

100万円を、原則としてその寝坊直後の配信が終了した時の属する年の必要経費に算入します。現金主義を採用することについて税務署長から承認を受けている場合には、現実に現金を支出した日の属する年の必要経費に算入します。


法人の場合

100万円のうち、時価相当額をその寝坊直後の配信が終了した時の属する事業年度の原価とします。時価相当額を超える部分については現実に支払った日の属する事業年度の販売費および一般管理費として損金の額に算入した後、寄附金の損金算入限度額を超える部分を加算調整します。


まず、個人と法人とで処理が異なりますね。個人の場合には100万円全額が原価となるのに対し、法人の場合には時価相当額までしか原価と認められず、残りは寄附金扱いとなります。これは、情でも動き得る個人と利益を究極に追及する法人という、動機の異なるごとに制度設計がされているためですね。法人は時価を超えて費用を払うことはないだろうということで、100万円はサービスの対価+寄附という認識をします。


また、各々の収益・費用の計上時期にも注目です。受取人は寝坊を防止した時、即ち請負契約を完了した時に課税所得を構成するのに対し、支払人は配信が終了した時を基準としており、寝坊を防止された時、即ち起床時間は関係ないこととなります。支払人において、この100万円が販売費及び一般管理費として認識されていれば受取人の収益計上と同時に費用計上すべきこととなりますが、上で述べたようにこれは特定の配信に紐づく原価の性格が強いため、課税所得計算上債権債務の確定より収益との対応の方が重視されるためです。


なので、例えば一方が2021/12/31の23:30の配信に寝坊し、他方が23:50に起こし、翌日0:00から配信を開始し1:00に終了した場合には、起こした人は2021年の雑所得として100万円を計上すべきこととなり、寝坊した人は2022年の必要経費として100万円を計上すべきこととなり、両者の収益費用の計上時期はずれることとなります。


消費課税

消費税は原則として対価の額に応じて課税されますので、対価が高額であろうと低額であろうと粛々と処理するだけです。計上時期の留意点としては、所得課税では支払人において配信が終了した時に費用計上すべきであるのに対し、消費課税では寝坊を防止された時に課税仕入れを認識すべきものと考えられます。


消費税の課税仕入れの時期については基本通達で

(課税仕入れを行った日の意義)

11-3-1 「課税仕入れを行った日」とは、課税仕入れに該当することとされる資産の譲受け若しくは借受けをした日又は役務の提供を受けた日をいうのであるが、これらの日がいつであるかについては、別に定めるものを除き、第9章《資産の譲渡等の時期》の取扱いに準ずる。(一部削除)

とされており、じゃあ9章はと見てみると

(請負による資産の譲渡等の時期)

9-1-5 請負による資産の譲渡等の時期は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日とする。

とあります。この文中でいう「その約した役務の全部を完了した日」とは寝坊を防止した時の属する日に他なりません。別の通達で、

(資産の譲渡等の時期の別段の定め)

9-6-2 資産の譲渡等の時期について、所得税又は法人税の課税所得金額の計算における総収入金額又は益金の額に算入すべき時期に関し、別に定めがある場合には、それによることができるものとする。

とあり、費用計上時期と整合させることができそうですが、原価に係る処理は別段の定めには該当しないでしょう。なので一旦、
(借方)手数料909,091円(貸方)未払金1,000,000円
(借方)仮払消費税90,909円
とし、配信終了が年を跨ぐ場合には、
(借方)棚卸資産909,091円(貸方)手数料909,091円
と記帳するのが税務申告の際の負担が少なくて済むのではないでしょうか。

在宅勤務に係る費用負担等に関するQ&Aが出たわね

お久しぶりです。


税制改正大綱の解説を続けていたんですが、資産税関連や法人税関連は細かな数字の変更が多くて、どうも筆、というか指が乗らないなあ……と思っていた最中、国税庁から指針が出され、ツイッタートレンドにも上がったホットな話題が提供されましたので、これの読み解きをやっていきましょう!


概要

在宅勤務によって手当を支給している会社がしばしばニュースで取り上げられていますよね。富士通なんかは去年の春ごろにはもうそのようなニュースが出ていた記憶があります。この寒い時期、家にいれば光熱費は嵩みますし、業務上の連絡を私物であるスマホを使ってとる方もいるでしょうから、その負担増をフォローする施策を採用する企業を増えることを睨んで、国税庁から「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」と題した質疑応答事例が発出されました。それがこちら。


パンフレット・手引|国税庁
(ページ上部、源泉所得税関係 Q&A関係 在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)(PDF/157KB))


タイトル通り、在宅勤務をする個人に対して支給する手当について、源泉所得税の面から取り扱いを示したものになっています。今回はこの事例を踏まえながら、源泉所得税はもちろん、法人税、消費税、償却資産税や実務への影響についても触れつつ読んでいきたいと思います。


源泉所得税関連

まずはこれを解説しないことには始まりませんね。今回の事例で述べているのは2点だと見ています。それは、手当の種類別の課税の要否と、一部のみ課税しない場合にはその計算方法についてです。


手当の種類別の要否

原則は問1に書いてあると相場が決まっているので、そこから引用しましょう。

在宅勤務に通常必要な費用について、その費用の実費相当額を精算する方法により、企業が従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はありません

この原則をもとにいくつか事例が示されています。


所得税を課すべき手当

  • 渡切りで支給する金銭等
  • 支給する事務用品等(現物給与)
  • 私用の通話料として支給する金銭等
  • スマートフォン本体の購入代金として支給する金銭等
  • 私用のスマホ契約に係る私用のオプション代として支給する金銭等


渡切りは実費精算という要件から明確に外れますし、私用分の会社負担については給与だろうというのも感覚的に馴染みやすいですね。一方、従業員の持ち物になってしまうPCやスマホの購入費を会社が出した場合、例えそれが業務のためであっても、全部を有税扱いとしなさい、ということになっています。一部も認めませんということですね。


機器類に関して購入費の〇〇%を会社が補助するといったような規定を整備している会社もあるでしょうが、その規定により支給する金銭等は所得税課税を免れなさそうですね。


所得税を課さない手当

  • 貸与する事務用品等の購入費として支給する金銭等
  • 業務のための通話料として支給する金銭等
  • レンタルオフィスの賃料として支給する金銭等


あくまで会社のものだけど従業員が自らの立替等で買ったPC等の購入費は、上記の従業員の持ち物になるPC等とは異なり、無税とされています。会社の持ち物である以上、この購入費は実費弁償ですからね。接待費や雑貨の購入費を一時立て替えて後で会社から払ってもらうというのと似ています。


レンタルオフィス賃料も、「自宅近くの」という要件はつきますが、その実費相当額は無税となります。自宅近くじゃないレンタルオフィスって業務上借りる意味がわかりませんから、まあ妥当ではないでしょうか。ただ「自宅近く」の定義については述べられていないので、常識の範囲内といえるかにかかってくるでしょう。


昨年の夏ごろだったか、政府がワーケーションを広めようとか言っていた気がしますが、ワーケーションのためのホテルの宿泊代はこのレンタルオフィスとは同一視できないのでしょうね。通常必要な範囲を超えたぜいたく品だから有税とするというのは他の取扱いと比べても矛盾はないんですけど、普及させたいならこういうところでもケアしなきゃダメなんじゃないのかと老婆心ながらに思います。


一部所得税を課さない手当

以下に掲げる費用として支給する金銭等のうち、一定の算式に達するまでの金額には所得税を課さないこととされています。ここはツイッターでも話題になっていたので、ガッツリ書いていきます。

  • 通話料(業務のための通話料を明細の積み上げで計算する場合を除く)
  • 電話基本料
  • インターネット接続に係る通信料
    (上記まで【算式1】により計算)
  • 電気料金(【算式2】により計算)

【算式1】

【算式2】

一定の場合には通話料の計算を簡便化できる

通話料については明細を私用・業務用に分けて積み上げる方法が原則ですが、業務のための通話を頻繁に行う業務に従事する従業員については、その総額を基礎として算式1により計算した金額とする簡便的な方法をとることができます。ただ、業務のための通話を頻繁に行うような人は積み上げで計算した方が所得税を課さないでいい金額が大きくなるでしょうから、採用して得となる場面は限定的でしょう。


1時間でも会社で勤務したらその日は在宅勤務日数に算入できない?

その従業員の1か月の在宅勤務日数というのも気になりますね。私の勤め先では1時間だけ会社で作業した後帰って在宅勤務するような勤務形態も認められていますが、1時間だけでも出社したら在宅勤務日数には算入できないんですかね? 所定労働時間の半分以上を在宅勤務した場合には1日とするなど、もう少し柔軟性を持たせた上で注釈が欲しいところです。


部屋の一部でも使ってたらその部屋の床面積全部を算入していい?

次に、電気料金について用いる算式2には、算式1に加え床面積が出てきました。ひえぇ……。肝は分子部分の「業務のために使用した部屋の床面積」ですね。厳格に解釈すれば仕事部屋のみを含めるのでしょうが、例えばパソコン部屋に置き切れないファイルを別の部屋の一部のスペースに保管した場合には、2部屋分の面積を算入していいんでしょうか。また、共働きの夫婦が1部屋で業務を行っている場合には、その1部屋は夫婦双方の勤務先において分子に算入していいんでしょうか。


書きぶりからは部屋面積の一部を算入するようには読めませんね。部屋ごとに白黒つけるように読めるので、その解釈でいいのか。部分的に使用している場合の取扱いなどもう少し注釈が欲しいです。


冷静に考えたらよく分からない「1か月の基本料金等」

1か月の基本料金や電気使用料ってどう計算するんでしょうね。スマホの通信キャリアでいえば、大手3社は月初から月末までを計算期間としています(ソフトバンクは選択制)が、電気料金はそうなっていない会社も多いでしょう。算式の理としては各請求ベースにおける料金を月単位に組み直してから按分計算をするのが筋でしょうが、事務手数が半端じゃないのであり得ないですね。職業会計人からしても嫌ですよそんなの。


水道やガスはダメですか?

事例には電気料金のみが取り上げられていましたが、水道料金やガス料金は例示には挙げられていませんでした。まあ水道は使用量の大部分が風呂か洗濯による私用だろうとしても、ガス料金はどうでしょう。給湯のみに使っていれば上記の水道料金と同様の解釈でほぼ私用といえるでしょうが、暖房としてガスストーブを使用している家庭では、在宅勤務により暖房のためのガス代が膨らんでしまう場合も考えられます。


エアコン代は無税でガス・灯油代は有税?

暖房費が在宅勤務で嵩むこととなるのにガス代は無税にしてくれないの? と従業員としては不満でしょうし、同じ暖房のための費用なのに電気料金とガス料金とで取り扱いが異なるのは公平性を欠きます。石油ファンヒーター用の灯油代も同様です。


灯油の使用量なんて測ってられない

ガス代や灯油代も一部無税になるとして、また先述の「1か月の基本料金や電気使用料」をどうするか問題が残ってるんですね。灯油は販売所から都度購入するものですから、期間ごとの使用量の把握は電気以上に難しいです。それはプロパンガスも同様です。


この指針を振り返って

目次を見た瞬間のQの少なさからある程度予期していましたが、この指針をもってすぐ実務に取り掛かれるような代物ではないですね。計算式も一見明瞭なように見えて、上で指摘したような不明点も多くありました。また追って文書が出されると思いますので、それを待ちましょう。


消費税関連

給与所得を対価とする役務の提供に該当するか否かは、消費税の課否にかかわるので非常に重要です。課税仕入れに該当するか否かという観点から、今回の指針を見ていきましょう。


課税仕入れってなんだっけ?

消費税は他の事業者に支払った消費税額を納付税額から差し引くことができますから、課税仕入れ、即ち消費税がかかるような支払いと認識する方が、課税仕入れ以外の支払いと認識することに比べて税務上有利です。


では課税仕入れの意義はというと、

事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けることをいう。(一部削除、消法2①十二)

となっています。本項の冒頭で述べたのは、括弧書きの部分です。


給与にかかわる支払いはすべて課税仕入れじゃないといえる?

たまに見る解釈誤りとして、給与課税される支払いであれば課税仕入れが一切取れないというのがありますが、そんなことはありません。その一例が、今回の指針にも出てきた現物給与です。


上記の指針では購入した事務用品等を従業員に支給する場合は給与と取り扱うとありますが、消費税ではどう考えればいいでしょう。従業員に支給する前に、その事務用品等の購入という過程があり、事務用品等の購入は条文中「資産を譲り受け」という所に該当します。「給与等を対価とする~」という括弧書きは役務の提供にのみかかっているので、本例の事務用品等の購入は事業者が事業として他の者から資産を譲り受けた場合に該当し、資産の譲り受けには特段の括弧書きがないため、課税仕入れに該当します。通達も下記の通り設けられています。

(現物給付する資産の取得)

11-2-3 事業者が使用人等に金銭以外の資産を給付する場合の当該資産の取得が課税仕入れに該当するかどうかは、その取得が事業としての資産の譲受けであるかどうかを基礎して判定するのであり、その給付が使用人等の給与として所得税の課税の対象とされるかどうかにかかわらないのであるから留意する。

精算方法で課税関係が変わる?

ただ、これはあくまで「購入した事務用品等を従業員に支給する場合」です。従業員が立替払いで購入し、後に会社に請求した場合には、会社はその事務用品等に係る所有権を一度も有したことがないとも考えられ、上記と同様に資産の譲り受けがあったものと解釈していいか疑問の余地が残ります。会社が従業員への実費精算と同時にその事務用品等の所有権を獲得し、後にその事務用品等をその従業員に支給することを決定したことと、その従業員の金銭的負担を補う形で支給したこととで課税関係は変わると考えられますが、両者をどのように区別・証明したらいいのかは判然としません。引き続き調べます。


事例ごとの課否

所得税を課さない手当で掲げた3項目

いずれも給与を対価とする役務の提供以外の役務の提供に該当しますから、国内取引であれば課税仕入れに該当します。


所得税を課すべき手当

支給する事務用品等(現物給与)、スマートフォン本体の購入代金として支給する金銭等


上述の通り、精算方法で課税関係が変わることも考えられます。


上記以外の3項目


私用の通話料等を対価とする役務の提供は給与等を対価とする役務の提供に該当し、課税仕入れには該当しないでしょう。現物給与と異なり、従業員が受ける役務の提供に先駆けて会社に課税仕入れが生じる場面は考えにくいです。


一部所得税を課さない手当

無税の部分は、会社が受ける役務の提供で、かつ、給与を対価とする役務の提供には該当しないため、課税仕入れに該当するでしょう。有税の部分は、給与を対価とする役務の提供に該当するため課税仕入れには該当しないでしょう。


法人税関連

この指針のいやらしい所として、企業が「従業員に」在宅勤務手当を支給する場合の取扱いに終始している点があります。役員に対するものは射程外なんですね。


ということは、役員に支給する在宅勤務手当は、従業員に対するものだったら無税とされていたものでも有税とされてしまうおそれを孕んでいます。そうすると何に影響するのかというと、役員給与の損金不算入額が生じます。有税というのは給与として取り扱われるということで、毎月実費精算みたいなことを行った挙句有税とされてしまっては、各月の給与が変動することとなります。即ち定期同額給与に該当せず損金不算入としなければならない部分が生じることに繋がります。金額としては大したことないでしょうが、実務上は非常に手間ですね。


償却資産税

償却資産税は、資産が所在する自治体に申告することとなっており、在宅勤務に当たり従業員に貸与している事務用品等は、その従業員の自宅の所在地の自治体に申告する必要があります。10万円未満の資産で一時の費用としているもの、20万円未満の資産で一括償却資産として経理しているものは償却資産の申告対象とはなりませんので、その辺りの規定をしっかり利用して償却資産を圧縮し、申告実務や納税に係る負担を軽くしましょう。


実務について

目下最も厳しそうなのは「一部所得税を課さない手当」の算式関連のところですね。会社は源泉徴収義務者である以上、床面積等の計算基礎が正しいもであるかある程度は調査する義務があると思われるところですが、どの程度頑張れば要請に応えたことになるんでしょうか。誤りも多いでしょうし、現状だと利用しづらい算式です。


ちょっと深読み

問1を読んだ時、「一定の金銭」という文言が気になりました。これは例え在宅勤務に通常必要な費用を実費精算したとしても、この「一定」から外れれば所得税を課さない手当から除外される余地が残っています。


じゃあ一定って何なんだというと、出社した場合にはかからない、在宅勤務において生じる固有の費用か、それに準ずる費用の精算に係る金銭を指しているのだと勝手に解釈しています。いずれにしても、在宅勤務に通常必要な費用を無制限に認めているわけではないという点は留意しておかないと、判断を誤ってしまいそうです。


あとがき

今回の指針から断言できることはまだまだ少ないので、この記事も2020/1/26現在においてはまだ未完成です。今後新たな情報が入り次第修正を施した上でお知らせしますので、よろしくお願いします。