帰(けえ)りてえが口癖の経理マンのチラ裏

日常に文章を書く時間をもう少し取り入れwrite思って始めました。

税制改正大綱について~資産課税編3・教育資金の一括贈与~

制度の意義

前回の記事でも書きましたが、下の世代への資産承継というのは、税負担の軽減だけを目的とすれば死ぬまで持っておくのが一番お得になることが多いです。


ただ皆にそれをやられると消費の期待できる世代への資産承継が遅々として進まないので、政策目的上様々な特別措置が講じられているんですね。


今回ご紹介するのはその特別措置の一つ、教育資金の一括贈与についてです。


制度の概要

贈与税の非課税


個人が直系尊属から取得した信託受益権、金銭又は金銭等の価額について、一定の要件を満たせば、うち1,500万円までは贈与税の課税価格に算入しないことを認める制度です。


要件は以下の通りです。
①その贈与が、その直系尊属と信託会社との間の教育資金管理契約(以下「契約」)に基づく信託受益権の贈与、契約に基づき銀行等に預け入れるための金銭の贈与又は契約に基づき金融商品取引業者の営業所等で有価証券を購入するための金銭若しくは公社債投資信託の受益権の贈与であること
②その贈与が、書面により行われていること
③受贈者がその契約を締結する日において30歳未満であること
④受贈者のその贈与により財産を取得した年の前年分の合計所得金額が1,000万円であること
⑤契約は、受贈者の教育に必要な資金を管理することを目的としていること等一定の要件を満たしていること


※ 教育に必要な資金の範囲は、文部科学省が定めることとしていますのでリンク先をご参照ください。


教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置:文部科学省


一番オーソドックスなのは金銭の贈与を受け、銀行等に預け入れる方法ですかね。この場合、受贈者は契約に基づき、銀行に特別な口座を解説します。例えば三井住友銀行だと下記のリンク先の様に「普通預金(教育資金贈与非課税口)<まなぶ想い>」という商品が用意されています。


普通預金(教育資金贈与非課税口)の商品概要 : 三井住友銀行


一般に普通預金というのは要求払いといって、預金者が求めればいつでも払い戻しを受けることができるのですが、それに対してこの口座の預金は、受贈者が自由に払い出すことはできません。教育のための支払に充てた領収書等をその銀行等に提出することが求められます。


なので金銭を贈与したとは言っても、一般にイメージされるような贈与とは少し違うわけですね。可処分性というか、受贈者にとっての自由度は低い財産となっています。


贈与者死亡

契約は、受贈者が30歳に達したこと、受贈者が死亡したこと又は契約に係る信託財産、預金若しくは有価証券の価額が0になった時に終了することとされているのですが、その終了前に贈与者が死亡した場合には、特別の規定が設けられています。


まず贈与者が存命のまま受贈者が30歳に達した場合を考えると、受贈者は、当初課税価格に算入しないこととされた金額から教育のために拠出した分を控除した金額(管理残額)を、その30歳に達した時においてその贈与者から贈与により財産を取得したものとみなされます。


「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」というこの規定の名前からは想像しづらいですが、この規定は非課税というより課税の判断を将来に先送りしている、という性格が強いんです。


この制度は教育のための費用に充てるための金銭の贈与を非課税としたいという趣旨ですが、教育というのは贈与時から遠い将来にわたって行われるものですから、贈与時における現況だけでは課税関係を判断しきれません。


なので一旦最大1,500万円までは課税しないことにして、もし将来その贈与を受けた資金のうち余った金額があったなら、その部分は普通に課税する形で精算しましょう、という制度なんです。


ここで、その終了までの間に贈与者が死亡した場合を考えます。もしその契約の終了時に余った金額があったとしても、既に死亡した人からの贈与を受ける扱いにするというのも理に適いません。もしその死亡した人からの贈与について相続時精算課税を選択していた場合、もう相続・贈与に係る課税関係は精算済みで今さら贈与扱いとされても困るという実務上の障壁もあり、死亡した人からの贈与というのは相続税法の建付け上あってはなりません。


誤りでした。契約の終了時に贈与者が既に死亡していた場合には、暦年課税により贈与税額を計算するそうです。措置法通達70の2の2-10より。あまりしっくりは来ませんが、既に死亡した者からの贈与があったものとみなすんですね。


〔措置法第70条の2の2((直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税))関係〕|国税庁


そこで、贈与者が死亡した場合には、その時点で相続税による精算を行うこととなります。具体的には、その贈与者の死亡前3年以内に行われた契約に基づく贈与により取得した信託受益権、金銭又は金銭等については、管理残額相当額を相続又は遺贈により取得したものとみなされる、というのが現行の規定です。


生前贈与加算及び贈与税額控除
ここで3年という数字は何なんだといいますと、相続税法にある生前贈与加算及び贈与税額控除の規定を意識しているのだと思います。贈与税は相続税を補完するものということはいつだかの記事で書きました。換言すると、原則というか、主役は相続税であり、贈与税はあくまで補助役です。


亡くなる前3年以内くらいの贈与であれば遡ることも容易だし、その贈与により取得した財産の価額は相続税の課税価格に加算して、もしその贈与について贈与税を納付していたのなら相続税額から控除する形で精算しよう、という制度ですね。


改正点

贈与者死亡の場合について、以下の点が変わります。


①期間が3年以内→無期限に……

相続又は遺贈により信託受益権等を取得したものとみなされる場合は、その死亡前3年以内の契約に基づく贈与により取得した財産に限られていましたが、その死亡の日までの年数は問われないこととなりました。納税者不利になりました。


ただ、受贈者がその贈与者が死亡した時において23歳未満、学校等に在学中、教育訓練を受講している場合は適用対象外という制度は堅持されるそうです。


②子以外は相続税額の加算の対象に……

相続税額の加算(2割加算)

相続又は遺贈により財産を取得した個人が、被相続人の第一親等の血族及び被相続人の直系卑属である代襲相続人並びに配偶者以外である場合には、納付すべき相続税額が20%加算されます。


これは、相続税は親から子へという資産承継を前提としているところ、例えばいきなり孫に遺贈するとなると、普通は 被相続人→子→孫 という順で2回相続税が生じ得る機会があるところ、1回だけになってしまうのはずるいよねということでこの規定があります。


ただ、子がその相続以前に死亡している場合のその子の代襲相続人である孫は、この規定の適用対象外です。「被相続人の直系卑属である代襲相続人」に該当しますし、将来の相続税の負担減を狙ったものでないことは明白ですからね(狙って子を先に始末するなんてどこのドラマですか)。


代襲相続というのは、被相続人の子又は兄弟姉妹で生存していれば相続人となっていたものがその被相続人の死亡以前に死亡していた場合に、その相続人となっていたものの子が代わりに相続人となる制度のこと。直系卑属は2代でも3代でも代襲相続が生じるが、兄弟姉妹は1代限りである点で異なるので注意。


相続又は遺贈により取得したものとみなされる管理残額についての2割加算の適用

今まで①により相続又は遺贈により取得したものとみなされた管理残額に対応する相続税額は2割加算の対象とはならなかったのですが、贈与者の子以外の直系卑属(孫とか)については、この措置がなくなるそうです。


ただ、その贈与者死亡の時においてその直系卑属がその贈与者を被相続人とする相続に係る代襲相続人であるならば、本来の相続財産や生命保険金等他の規定に基づくみなし相続財産に係る相続税額については2割加算が適用されないわけですから、この場合にはこの管理残額に対応する部分についても2割加算の対象外とすることが適当でしょう。


大綱にはそのような記載はなく、子以外であれば2割加算の対象にする旨しか書いていません。この辺りは当然に整合させてくるだろうとは思いますが、注視していきましょう。