帰(けえ)りてえが口癖の経理マンのチラ裏

日常に文章を書く時間をもう少し取り入れwrite思って始めました。

インボイス制度反対記事のばかばかしさ

きっかけはツイッター

昨日TLを眺めていたら、その返信欄で下記のようなページを見つけましてね、もうあまりのばかばかしさに怒りが収まらず記事を書き始めました。


キャンペーン · 軽減税率に伴うインボイス制度ーこのまま導入すると日本中のフリーランス、零細業者が廃業に追い込まれます。消費税増税を含み制度の凍結を!! · Change.org


なので今回は税制改正大綱の解説ではなく、上記リンク先ページの記載内容がいかに誤っているかを論って斬っていく内容となります。この制度は会社の財政的にも自らの事務的にも負担が増えるので、私も実務家として賛成というわけではありませんが、こんなレベルの低い思い込みとそれに基づく扇動は、インターネットユーザーの厳しい環視のもとに駆逐されるべきと考え、キーボードをたたき始めた次第です。


リンク先ページの誤り

インボイス提出を業種に関係なく事実上全ての中小企業、フリーランスに義務付けている点

インボイスというのは、ざっくりいえば従来の請求書等に登録番号というものを付したものをいうのですが、付したくないならそうすればいいだけのことです。消費税法上何らかの違反をしているわけでも、その記載の有無と今後の営業(詳細は後述)ともまた関係のない話です。

新制度では免税業者との取引の場合課税業者が免税業者が支払っていない分まで消費税払わされるので割高になってしまいます。

消費税の大まかな制度と課税仕入れについて

まずはこの画像をご覧ください。

これは国税局が作成したパンフレットに記載されているものです。


小売業者のところを見てみると、税抜で70,000円を仕入れ、100,000円で売っていますね。それにより7,000円の消費税を卸売業者からの購入時に仕入れ代金に上乗せして支払い、10,000円の消費税を消費者への販売時に販売代金に乗せて受け取っています。消費者から預かった消費税10,000円から卸売業者に支払った消費税7,000を差し引いた残額3,000円が納付税額とされていますね。


消費者が消費税として支払った10,000円は全額国に納付されるべきですよね。小売業者が納付税額の計算上差し引いた7,000円というのは、より商流が上の方の業者がそれぞれ国に納めるはずということで、小売業者は納めなくていいということなんです。現に、小売業者より商流が上に位置する3つの業者の納付税額の合計は7,000円となっていますね。だから小売業者消費者から預かった10,000円の全額を納める必要はなく、3,000円で済むのです。


これを少し消費税法上の用語に近づけて表現すると、事業者が他の者に支払った費用等が課税仕入れに該当するのであれば、標準税率の場合その対価の10/110を消費税の納付税額の計算上差し引くことができる、ということになります。


より商流が上の業者が消費税を納めなくてよいとされている免税事業者であるならば、その業者が納める消費税はないわけですから、小売業者の納付税額から控除できる額も0円となるべきというのが原則論であるところ、現状はそうなっていません。

課税仕入れ 事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けることをいう。(消法2①十二、一部削除)


(課税仕入れの相手方の範囲)

法第2条第1項第12号《課税仕入れの意義》に規定する「他の者」には、課税事業者及び免税事業者のほか消費者が含まれる。(消基通11-1-3)

これら2つを合わせて読むと、相手方が免税事業者であっても、当該他の者との取引が消費税が課される類のものであるならば、当該他の者に支払う費用等は課税仕入れとして取り扱うこととされているんです。


現行制度下における免税事業者

では、上の図中の卸売業者が免税事業者である場合を考えてみましょう。その時に卸売業者には次のような選択肢があります。
①価格を70,000円とし、消費税相当額は取らない。
②価格を77,000円とし、消費税相当額を取るが納付はしない。


この時、もし前者をとれば、卸売業者の収益は課税事業者として77,000円で販売した場合と差がありません。いずれも70,000円の収益を獲得できます。一方、小売業者は免税事業者である卸売業者への支払についても課税仕入れとすることができるので、70,000円*10/110の6,364円を納付税額から差し引くことができ、費用に計上すべき額は63,636円となります。支払を受ける側からすると同じだった損益への影響が、支払いをする側からすると、課税事業者への77,000円と免税事業者への70,000円とでは費用計上額は同じとはならないのです。なので、①の方法を採用した免税事業者は課税事業者と同等の利益水準を確保しつつ価格競争で優位に立てます。


もし後者を取れば、収益の額が課税事業者とは異なります。免税事業者は77,000円をまるまる収益を獲得できるのに対し、課税事業者はうち7,000円は国に納付しなければなりませんので、70,000円の収益しか獲得できません。支払をする側からするとどちらも税込77,000円で、どちらへの支払も課税仕入れとなるため、70,000円の費用が計上され価格競争には影響しません。


まとめると、
①の方法
イ.価格競争面……免税事業者が優位
ロ.単位あたりの収益……免税事業者と課税事業者とで差異なし
②の方法
イ.価格競争面……免税事業者と課税事業者とで差異無し
ロ.単位あたりの収益……免税事業者が優位


ただ、消費税の負担、即ちその損益が帰属すべき先は消費者であり、事業者に消費税で損得が生じるというのはおかしいんです。だからその不合理な部分を無くそうというのがインボイス制度です。インボイス制度では、上記のまとめは下記のように変わります。


①の方法
イ.価格競争面……免税事業者と課税事業者とで差異なし
ロ.単位あたりの収益……免税事業者と課税事業者とで差異なし
②の方法……
イ.価格競争面……課税事業者が優位
ロ.単位あたりの収益……免税事業者が優位


料金設定を高くすればシェアが減るだろうという市場の原理が適正に働く形になったのではないでしょうか。なので、「免税業者が支払っていない分まで消費税払わされる」というのは見当違いもいいところです。消費税を取っていれば相手方に課税仕入れを認める、取っていなければ課税仕入れも認めない、それだけのことです。

そもそもこの制度は軽減税率とセットになっているもの

消費税法制定に当たって日本はECの付加価値税を参考にしていますが、ECは当時からインボイス制度を採用しており、昨日今日出てきたような目新しい仕組みではありません。日本でも当初から遡上に載せられていた論点ではあったとみるのが自然です。官民の事務負担を懸念して帳簿及び請求書等保存方式(当時)に落ち着いたのでしょう。ただ、やはり上述した不当な益税の問題があるため見直しに至っただけで、軽減税率とセットというほど紐づけの論点ではありません。


おわりに

制度の変更の前後で比較すれば小規模のフリーランスは価格競争面か収益性のいずれかを犠牲にするかを迫られるわけですが、それは消費税の理念上不当な優位性が失われるだけのものです。これまでの利益を隠しながら死活問題だと嘯く姿勢にはとても賛同できません。今度もこういう扇動を見かけ次第斬っていきたいですね。