帰(けえ)りてえが口癖の経理マンのチラ裏

日常に文章を書く時間をもう少し取り入れwrite思って始めました。

111億、費用とみるか?資産とみるか?【第1回:事件の概要と関連法令等】

複式簿記に馴染みのない方からすると、費用と資産などまったくの別物ではないかと思われるかもしれません。しかしこれはなかなかに難しい問題です。複式簿記の仕訳の問題に落とし込むなら、物を買いました。貸方に資産の減少として現金勘定を記入するのは当然として、借方には何を記入すべきなのでしょう、といったところです。


自社発行の社債を買えば負債の減少も考えられますが、実務上多くの場面では資産の増加と費用の発生のいずれかに落ち着き、時にその狭間で迷うのです。例えば、建物を買った場合は資産の増加と言えそうですが、では家庭用プリンターを買った場合はどうでしょう? PCのSSDが壊れたから買い替えた場合は? 実務や学習経験なくして即答するには難しいのではないでしょうか。


今回は「資産とは何だ?」レベルまで根源的な話ではないのですが、実務家の間では非常に有名なNTTドコモ事件の判例や当該判決に対する意見のご紹介と、そこから実務に見る私見を書いていきたいと思います。


長くなりそうなので何回かに分けて記事にします。(多分3,4回程度?) 今回は事件の概要と、根拠となりそうな法令及び解釈通達を掲げておきますので、読者の皆さんも当該資産の取得費が資産となるか費用となるか、考えてみてください。


事件の概要

  • X(原告・被控訴人=附帯控訴人・被上告人)は携帯・自動車電話事業等を営む株式会社
  • 平成10年12月1日、XはA社からPHS事業の営業譲渡を受け、同事業を開始
  • XはPHS事業にあたり、B社電話網の機能を活用する方式(いわゆるB社網依存型の方式)によっている
  • 当該事業に係るPHSは、PHS事業者が設置する基地局、B社が設置するエントランス回線(基地局とB社の設置するPHS接続装置との間を接続する設備)、PHS接続設備及び電話網等を介して固定電話等と双方向の通話が可能
  • 上記の営業譲渡に伴って、XはA社からB社が設置するエントランス回線を利用する権利(エントランス回線利用権)を譲り受けた
  • エントランス回線の対価は、単価72,800円で153,178回線分、総額111億5,135万8,400円
  • Xはこれを少額減価償却資産に該当するものとして、全額をその取得した事業年度分の損金の額に算入(=損金経理、費用計上)
  • 所轄税務署長Y(被告・控訴人=附帯被控訴人・上告人)は本件エントランス回線利用権は少額減価償却資産にあたらないとして、法人税の更正処分等を行った
  • Xはこれを不服とし、当該更正処分等の取消しを求めて出訴

関連法令等

(定義)

減価償却資産 建物、構築物……その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう。(法法2二十三)

(減価償却資産の範囲)

法第二条第二十三号(定義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。

一 建物及びその附属設備(暖冷房設備、照明設備、通風設備、昇降機その他建物に附属する設備をいう。)

~~~~~~~~~~~~

八 次に掲げる無形固定資産

~~~~~~~~~~~~

ツ 電気通信施設利用権

(法令13)

(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)

内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として……当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、……政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。(法法31①)

(減価償却資産の取得価額)

減価償却資産の……取得価額は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

一 購入した減価償却資産 次に掲げる金額の合計額

イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)

ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額

(法令54①一)

(少額の減価償却資産の取得価額の損金算入)

内国法人がその事業の用に供した減価償却資産……で、……使用可能期間が一年未満であるもの又は取得価額……が十万円未満であるものを有する場合において、その内国法人が当該資産の当該取得価額に相当する金額につきその事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理をしたときは、その損金経理をした金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。(法令133)

(少額の減価償却資産又は一括償却資産の取得価額の判定)

令第133条《少額の減価償却資産の取得価額の損金算入》……の規定を適用する場合において、取得価額が10万円未満……であるかどうかは、通常1単位として取引されるその単位、例えば、機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに判定し、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事等ごとに判定する。(法基通7-1-11)


いわゆる「自販機スキーム」を巡る東京地裁判決について

消費税界隈では有名な租税回避として表題のようなやり口があります。これを利用して不動産賃貸業を営む法人(同族会社、原告)が、消費税について約2,500万円を還付金額として記載した確定申告をし、国はこれに対し還付税額を生じないと指摘した結果、原告が訴えを起こしたというのが訴訟までの簡単な経緯です。


東京地裁は国の主張を認め、原告が全面敗訴しました。控訴が期限までにされなかったため、本件に係る判決は確定したようです。しかし、私はこの地裁の判断に大きな疑問を持ったため、この記事を書くに至りました。


なお、判決文そのものは調べても見当たらなかったので、私の知る事実は税務通信が記事にしているところを限度とします。

裁判の概要

前提事実(時系列順)

H24.8.7 設立、同日から課税事業者の選択の効力発生
H26.11.26 賃貸用不動産購入の契約締結
H26.12.11 清涼飲料水メーカーと自販機の設置に関する協定を締結
H26.12.15 課税期間の変更(従来の毎年12.1-11.30を毎年12.25-12.24へ、定款で事業年度そのものの変更?)
H26.12.18 自販機を設置
H26.12.23 メーカーの従業員がこの自販機の売上高を確認
H26.12.24 同不動産の所有権を取得


上記について、原告・被告双方に意見の相違がない点

  • この不動産の購入は課税仕入れに該当し、この購入対価に係る消費税額は仕入税額控除の計算基礎となる。(当時はまだ居住用不動産を購入した場合の規定がない)
  • 自販機の売上高に係る手数料収入は、原告の課税売上高を構成しうる。
  • 本件に係る課税期間は、H26.12.1-H26.12.24である。

原告が申告基礎とした解釈

本件課税期間における課税売上割合(※)は100%である。分子に算入すべき金額は自販機手数料の112円、分母に算入すべき金額は同じく112円として計算した。


(※)課税売上割合
消費税では、事業者は他の事業者に支払った消費税を顧客等に転嫁するものという前提で、納付税額の計算上その支払った消費税額の控除を認めています。非課税の売上が大きい事業者は消費税を顧客等に転嫁できていないことになり、この前提から外れます。


上記の前提を基礎とした原則としては、支払った消費税を全額控除することを認めます。一方で売上の大部分が課税であるとはいえない(95%未満)ならば、控除税額は支払った消費税額の「一部」とする、という規定になっています。


この割合の計算式は、以下の通りです。
分子:課税売上高
分母:課税売上高+非課税売上高


自販機の手数料収入が課税売上高を構成するのは明らかなので、「その収入時期が本件課税期間内にあるならば」原告の算定方法は正しいものとなります。

国の主張(=東京地裁が認めたもの)

本件自販機収入は、H26.12.31を経過した時点であるため、本件課税期間における課税売上高は0円である。

  • 消費税法では、課税標準となる対価の額を「対価として収受し又は収受すべき一切の金銭等」と定めている。
  • これから、対価を収受する権利が確定した時点で課税売上が発生したものと解するのが相当。
  • 本件に係る自販機メーカーとの契約では、販売手数料は「毎月末締、翌月15日払い」とされている。
  • この事実から、各月1日から末日までに提供した役務の対価として、本件手数料に係る債権が発生すると解するのが相当。
  • 本件では、毎月の最後の売上高確認日までの売上高に基づき販売手数料が計算されていたが、それは販売手数料の計算のための便宜によるものだ。
  • その行為によって債権が発生する日に変わりはない。

本件判決に係る私見

課税売上割合が95%未満といえるか?

上記でも述べた通り、仕入税額控除というのは「原則」支払った消費税額の全額控除を認め、「課税売上割合が95%未満である場合には」控除税額を制限する書きぶりになっています。

事業者が、国内において行う課税仕入れについては、その属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額につき課された又は課されるべき消費税額の合計額を控除する。(消法30①、一部削除修正)

前項の場合において、当該課税期間における課税売上割合が百分の九十五に満たないときは、同項の規定により控除する課税仕入れに係る消費税額の合計額は、同項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める方法により計算した金額とする。(消法30②、一部削除)

本件手数料収入が本件課税期間に帰属しないのであれば、課税売上割合の分子は0円となりると同時に、分母も0円となります。これでは計算不能であるわけですが、これを「95%未満である」とするには無理がありませんか。


この消費税法30条の1項と2項の位置づけは、1項が原則であるのに対し2項が例外という位置づけです。要件の厳格性は、原則より例外の方が強く求められるべきです。下記の記事の江川さんのくだりでも書きましたが、契約自由の原則がありながら、明文規定はないけど空気読んでその自由を行使するなという主張は、自由の原則が際限なく制限される余地を孕んでいます。それでは原則という語そのものの意義が揺らいでしまいますから、例外の要件設定と運用は厳格に行われなければなりません。


本件に話を戻すと、例外規定の適用要件として「95%未満」を採用している以上、課税売上割合をPとすると、Pは当然に計算可能であり、かつ、 0%≦P<95% を満たすことが要求されていると解釈すべきではないでしょうか。他に非課税売上に該当する収入があったか否かは記事にありませんが、実務上頻出する非課税売上である預金利息収入の入金時期は2月と8月です。それ以外の可能性も、これだけ課税期間に気を揉んでいる会社ですから、そんな事実を許すはずがないとも推定できます。

売上高の計上時期を一義的に拘束すべきではない

なんで課税標準についての規定を参照した?

東京地裁は課税標準についての規定を用いていますが、まずこれに強い違和感があります。課税標準についての規定は、消費税を乗じる前の被乗数の測定を目的としているため、そこから課税売上が発生した時期を文理解釈するのはいかがなものでしょう。


消費税の課税の対象というのは資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供の3種が挙げられており、この3種の事実が発生した時期が最も重視されるべきはずです。課税標準の規定の書きぶりは、これら3種の行為が行われたのであれば当然にその対価相当額も算定できるという前提に基づいているのではないでしょうか。

課税売上の計上時期

売返通達からの批判
売上に係る対価の返還等では、以下の通達があります。

課税資産の譲渡等に係る売上割戻しについては、次に掲げる区分に応じ、次に掲げる日に当該売上割戻しを行ったものとする。


(1) その算定基準が販売価額又は販売数量によっており、かつ、当該算定基準が契約その他の方法により相手方に明示されている売上割戻し 課税資産の譲渡等をした日。ただし、事業者が継続して売上割戻しの金額の通知又は支払をした日に売上割戻しを行ったこととしている場合には、これを認める。


(2) (1)に該当しない売上割戻し  その売上割戻しの金額の通知又は支払をした日。ただし、各課税期間終了の日までに、その課税資産の譲渡等の対価の額について売上割戻しを支払うこと及びその売上割戻しの算定基準が内部的に決定されている場合において、事業者がその基準により計算した金額を当該課税期間において未払金として計上するとともに確定申告書の提出期限までに相手方に通知したときは、継続適用を条件に当該課税期間において行った売上割戻しとしてこれを認める。

割戻しには計算期間が設けられている場合も多分に想定される中、割戻しの計算基準に問わず、相手方への通知日に売返として計上することを認めています。これに通知日による基準を設けている一方で、本件には通知日による収益計上を認めない合理的な理由があるのでしょうか。


歴史的会計慣行からの批判
消費税は通達において、売上の計上時期について、別段の定めがある場合には法人税の益金算入時期によることができるとしています。これは実務を考えたら、両者の収入等時期に多くの差異を設けると混乱するため、その回避等を目的としているのでしょうから、一定の合理性があります。


旧法人税基本通達2-1-2では、

棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、例えば出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする。

とされていました。「検針等により販売数量を確認した日等」により収益計上することを容認しています。このような多様な基準を認めている背景には、法人税は課税所得の計算基礎である益金損金の額すべてを定義できておらず、多くを、一般に公正妥当な会計基準により計算された収益費用の額によっていること。その参照先である会計は、もともと一の理論から演繹して行われていたものではなく、個々の態様に沿う範囲内で様々な合理的な基準により行われてきた歴史的慣行があります。


上記の通達は棚卸資産を対象としたもので、本件自販機にある飲料は原告の棚卸資産でないことは事実ですが、他人の棚卸資産につき検針日等の基準によることはそんなに暴論でしょうか。どちらも、同一の事実、その自販機の販売という事実により、収入を得ることができるのであれば、一方に検針日等の基準を認め、他方に認めないというのは整合性が確保できないのではないでしょうか。


消費税法文理からの批判
消費税法では課税の対象を

国内において事業者が行つた資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。(消法4①、一部削除)

資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう。(消法2①八、一部削除)

としていますが、では計算期間の末日を迎えなかったからといって、それは本件課税期間中に役務の提供が行われなかったことを意味するのでしょうか。現実に自販機には売上が記録されており、それはその設置スペースを用意する形で原告が提供した役務による結果に他なりません。対価の額については確かに確定していないものの、現実に役務の提供が行われたのであれば、例え見積り額でも課税売上として認識すべきというのが文理解釈上自然ではないでしょうか。


先の批判と重複しますが、消費税の課税の対象を定めた規定が、税額測定のための規定を重視するあまり軽んじられているのではないでしょうか。本件は課税標準額の測定が争点ではなく、資産の譲渡等の帰属、すなわち本件手数料収入に係る役務提供を、本件課税期間中に行った資産の譲渡等をいえるか、法4の解釈の問題です。

毎日新聞の減資から見る法人税制

共同通信の報道によると、株式会社毎日新聞社(以下、毎日新聞社)は1/15に開いた臨時総会において、3/1付で資本金の額を4,150百万円から100百万円へと減少させ、同時にその他資本剰余金の額をその減少額相当分増加させることが決議されたそうです。(決議といっても、同社は持株会社の完全子会社なので、議案に上る土壌があった時点で否決される余地などなかったはずですが)


この記事では、この決議により同社が税優遇措置を受けられるとしていますが、じゃあその優遇措置ってどんなものがあるのでしょうか。また、本件に係るヤフーニュース記事へのコメントには同社を責める論調が強いですが、それに対する私なりの見解を書いていきたいと思います。


そもそも資本金、資本剰余金の違いは?

主として配当可能か否かがあります。配当というと一般的には利益配当、つまり利益剰余金を原資とした配当のことを指すのですが、資本剰余金も原資とすることができます。資本金は配当できません。


したがって資本金のままだったら金銭等が社外に流出することはなかったものの、資本剰余金に振り替えたことにより株主の決議次第で社外に流出する可能性も考えられるため、議決権を持たない債権者からは財政基盤がよわよわになったように見える面があります。


資本金の額が少額である法人に対する法人税制

法人税法の規定

  • 原則コストにできない費用の容認(貸倒引当金)
  • コストに入れられる限度額の拡充(欠損金の繰越控除)
  • 軽減税率

上記の規定適用の対象者は、各事業年度末日における資本金の額が1億円以下の普通法人で、大法人による100%支配関係があるものを除いたものです。


毎日新聞社には持株会社による100%支配関係がありますが、その持株会社の資本金の額は500万円であるため大法人には当たらず、これらの規定適用の対象者となります。

租税特別措置法の規定

  • 軽減税率(※2)
  • 控除税額の拡充(試験研究)
  • コストに入れられる限度額の拡充(各種特別償却、交際費(※1)、少額減価償却資産)
  • コストに入れられる限度額の計算方法の選択肢の拡充(貸倒引当金(※2))
  • 適用が停止されている還付の容認(欠損金の繰戻し還付(※1))

上記の規定適用の対象者は、次の通りです。
(※1):法人税法で述べた対象者と同じです。
(※2):(※1)から適用除外事業者(過去の所得金額を基礎として計算した一定の金額が15億円を超える場合のその法人)を除いたもの。
それ以外:(※2)から、①発行済株式の過半数を同一の大規模法人に所有されているもの、②発行済株式の2/3以上を大規模法人に所有されているもの を除いたものをいいます。


いよいよ携帯電話のプランみたいになってきましたね。租税特別措置法の書きぶりは複雑怪奇(特別措置なので、そうならざるを得ない事情はありますが)なので、適用に当たっては細心の注意を払いたいところです。


毎日新聞社は、直近の決算を見るに適用除外事業者にはおそらく該当せず、大規模法人に所有されている事実もないため、これらの規定すべての適用対象者であると考えられます。


なんとなくずるく思えるけど……

この原資は合法? 違法?

資本金の減少は、会社法により認められた行為であるため合法です。株主総会による決議が要求されます。

株式会社は、資本金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の決議によって、一定の事項を定めなければならない。(会社法447、一部修正)

ルールの範囲内なら何をやっても自由、私法自治の原則

私法(私人同士の関係を規律するための法律。会社法はこれに含まれます。)の世界では、ルールに反しない限り自分に最も有利となるような私法形成が行えます。


例えば会社法は資本金を減少させることを認めていますが、減少させる資本金の額は効力発生日における資本金の額を超えてはならない(=効力発生後に資本金の額がマイナスになってはならない)ともされています。後段の要件を満たせば問題ありませんが、満たさなければ、その株主総会でされた決議は無効となります。


毎日新聞社は効力発生後の資本金を1億円としていますし、その他にもおそらく瑕疵はないでしょうから、否認されるべき謂れはありません。

租税回避って新聞とかでたまに見るけど、この件は違うの?

脱税と似た言葉に租税回避って言葉がありますよね。これらはどう違うのかというと、脱税は隠蔽・仮想に基づく税金のちょろまかしです。平たくいえば嘘を吐いて税負担を免れることをいいます。


一方租税回避というのは、課税要件に該当することの回避や、減免要件を形式的には該当させる行為を指します。これと節税との違いは、その租税法が予定しているものか否かといった別があると理解されますが、租税法の気持ちを理解するのは難しいですから、その境界をはっきりとさせることは難しいですが、私は本件は租税回避には当たらないものと考えました。詳細は後述します。

この決議を否認できるような規定ってあるの?

あるにはある止まりですが一応。同族会社等の行為又は計算の否認規定というものがあります。

税務署長は次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる

一 内国法人である同族会社

以下略(法法132①)

同族会社というのは、会社の株主等の3グループ以下がその会社の株式の過半数を所有している場合のその会社をいいます。毎日新聞社は持株会社1社(1グループ)に100%(過半数)の株式を所有されていますので、同族会社に該当します。


同族会社というのは、それ以外の会社と比べて身内で意思決定ができてしまう、自治が働きにくいといった特徴があります。時には会社、究極に利益を追求する団体としては取り得ないような行動等をとることも厭わないことも十分に想定しえます。そのような行動により税負担を不当に免れては課税の公平性が保てないため、税務署長にそれを阻止するための権限が与えられている格好です。


税負担を不当に減少させる~という要件がある以上、その法人の行為計算が租税回避行為に当たることが前提のように読めます。なので税務署長が租税回避と認定すれば、資本金を減額した事実を否認して、これまで通り大法人として計算した金額による更正処分も条文上可能といえば可能ですが……。

減資みたいな行為を否認された前例はない?

上記の税務署長による行為計算否認の行使が司法により是認された例は多数あるのですが、見てみると過大な役員給与の損金算入否認、役員の出張に同行した家族の旅費の賞与認定、親族等のために市に支出した寄附金の賞与認定、役員にした無利息貸付けの給与認定、資産の低額譲渡につき時価と対価との差額の益金及び寄附金認定、資産の高額買入れにつき時価との差額につき贈与認定等、現実に収益又は費用が生じる場合の、その認識又は測定に係るものしか見当たりませんでした。


資本金の額の減少はそれ単体で収益費用を伴う類の取引ではないので、もし本件に行為計算否認がなされれば、司法上は前例のない行政処分となるのではないでしょうか。
そもそも資本金で担税力に応じた措置が取れるの?
そもそもこれら税優遇の意義は、財政基盤が脆弱な中小規模の法人の資本増強を促すことを目的としているもので、その対象を選定するための物差しとして資本金を用いている形です。


毎日新聞社は、おそらくこの税優遇を目論んで減資をしたのでしょうが、そもそもこれは租税回避に当たるのでしょうか。本来の趣旨に照らせば、毎日新聞社を資本増強を促す必要がある法人とまで見ることはなかなかに困難であることに異論はない(平たくいえばずるい)でしょうが、一方で節税との違いは租税法による予定の有無と解されるいうのは上に述べたとおりです。税優遇を受けるために資本金の額を抑えるというのは、決して複雑怪奇な演繹と私法上の形成を経て実現されるものではなく、至ってシンプルなものです。これを法人税法が予定しているものではない、租税回避だと主張するのは苦しいのではないでしょうか。


感覚的にずるいと思えるようなことがまかり通ってしまうのは、偏にルールが悪いと思っています。本件で一番責められるべきは、法人税という収得税の担税力を図ることについて資本金の額というストックに関する指標への依存度が高い法律を、多少メンテしてきたとはいえ根幹部分は放置してきた立法府に帰属するのだと思います。


*****よだん*****

江川卓さんの「空白の一日」に思ったこと

私はよく、ルールに則ってとった行為等が感覚的にずるいと思えるのなら、それはルールが悪いという考え方をよくします。個人の規律ある行為等を促すためのルールであるはずなのに、随所で「良識に任せる」ような運用では、ルールそのものの存在意義に疑問符が付きますし、ルールに縛られる側にとってはどれだけ約束を守っても裁量で悪者とされてしまう不透明感が生まれます。


これは、ウィキペディアで元読売ジャイアンツの投手、江川卓さんの空白の一日の一連の流れを読んだ時に初めて得た考え方でした。江川さんは1977年11月に行われたドラフト会議でクラウンライター(現埼玉西武)から指名を受けましたが、江川さんは同球団と契約することはありませんでした。


ここでドラフト制度に触れると、アマチュアとプロ野球球団との契約を秩序あるものとするため、球団はドラフト対象選手とドラフト会議前に契約してはならない、ドラフトで指名された選手との独占交渉権はその指名した球団だけが持つというルールがあります。


独占交渉権は翌年のドラフトの前々日までとされていました。また、ドラフト対象選手は「日本の中学・高校・大学に在学している者」でしたが、江川さんがクラウンライターとの契約を蹴った翌年、NPBは同氏をドラフト対象選手とするためにドラフト対象選手を「日本の中学・高校・大学に在学した経験のある者」に改正しました。


しかし、その発効日が問題でした。「次回ドラフト会議当日(1978年11月22日)」から発効するとされていたのです。西武(クラウンライターから引き継ぎ)が持つ江川さんとの独占交渉権は1978年ドラフトの前々日(1978年11月20日)に消滅し、江川さんがドラフト対象選手となるのはドラフト当日の1978年11月22日からですから、その前日、1978年11月21日においては、江川さんと独占交渉権を有する球団はなく、また、江川さんはドラフト対象選手ではないため、ドラフト会議前に契約しても差し支えない、テスト入団扱いにできる状況にありました。


それまで、テレビとかでたびたび江川さんを悪者とするような報道を見てきて、確かに同氏も全くの善意に基づく行動ではなかったのでしょうが、それにしてもルールがお粗末すぎませんかと。すごく悪い解釈をしたのならまだしも、ドラフト対象選手としての地位を失う時期が明記されていない以上、独占交渉権の消滅と共に消失するというのはきわめて自然な解釈ですし、ルールがない限りは契約自由の原則が尊重されるべきです。自然に有するべき権利が明文なしで制限されてしまうことの方が危ういと思いませんか。