帰(けえ)りてえが口癖の経理マンのチラ裏

日常に文章を書く時間をもう少し取り入れwrite思って始めました。

111億、費用とみるか?資産とみるか?【第1回:事件の概要と関連法令等】

複式簿記に馴染みのない方からすると、費用と資産などまったくの別物ではないかと思われるかもしれません。しかしこれはなかなかに難しい問題です。複式簿記の仕訳の問題に落とし込むなら、物を買いました。貸方に資産の減少として現金勘定を記入するのは当然として、借方には何を記入すべきなのでしょう、といったところです。


自社発行の社債を買えば負債の減少も考えられますが、実務上多くの場面では資産の増加と費用の発生のいずれかに落ち着き、時にその狭間で迷うのです。例えば、建物を買った場合は資産の増加と言えそうですが、では家庭用プリンターを買った場合はどうでしょう? PCのSSDが壊れたから買い替えた場合は? 実務や学習経験なくして即答するには難しいのではないでしょうか。


今回は「資産とは何だ?」レベルまで根源的な話ではないのですが、実務家の間では非常に有名なNTTドコモ事件の判例や当該判決に対する意見のご紹介と、そこから実務に見る私見を書いていきたいと思います。


長くなりそうなので何回かに分けて記事にします。(多分3,4回程度?) 今回は事件の概要と、根拠となりそうな法令及び解釈通達を掲げておきますので、読者の皆さんも当該資産の取得費が資産となるか費用となるか、考えてみてください。


事件の概要

  • X(原告・被控訴人=附帯控訴人・被上告人)は携帯・自動車電話事業等を営む株式会社
  • 平成10年12月1日、XはA社からPHS事業の営業譲渡を受け、同事業を開始
  • XはPHS事業にあたり、B社電話網の機能を活用する方式(いわゆるB社網依存型の方式)によっている
  • 当該事業に係るPHSは、PHS事業者が設置する基地局、B社が設置するエントランス回線(基地局とB社の設置するPHS接続装置との間を接続する設備)、PHS接続設備及び電話網等を介して固定電話等と双方向の通話が可能
  • 上記の営業譲渡に伴って、XはA社からB社が設置するエントランス回線を利用する権利(エントランス回線利用権)を譲り受けた
  • エントランス回線の対価は、単価72,800円で153,178回線分、総額111億5,135万8,400円
  • Xはこれを少額減価償却資産に該当するものとして、全額をその取得した事業年度分の損金の額に算入(=損金経理、費用計上)
  • 所轄税務署長Y(被告・控訴人=附帯被控訴人・上告人)は本件エントランス回線利用権は少額減価償却資産にあたらないとして、法人税の更正処分等を行った
  • Xはこれを不服とし、当該更正処分等の取消しを求めて出訴

関連法令等

(定義)

減価償却資産 建物、構築物……その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう。(法法2二十三)

(減価償却資産の範囲)

法第二条第二十三号(定義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。

一 建物及びその附属設備(暖冷房設備、照明設備、通風設備、昇降機その他建物に附属する設備をいう。)

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八 次に掲げる無形固定資産

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ツ 電気通信施設利用権

(法令13)

(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)

内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として……当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、……政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。(法法31①)

(減価償却資産の取得価額)

減価償却資産の……取得価額は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

一 購入した減価償却資産 次に掲げる金額の合計額

イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)

ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額

(法令54①一)

(少額の減価償却資産の取得価額の損金算入)

内国法人がその事業の用に供した減価償却資産……で、……使用可能期間が一年未満であるもの又は取得価額……が十万円未満であるものを有する場合において、その内国法人が当該資産の当該取得価額に相当する金額につきその事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理をしたときは、その損金経理をした金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。(法令133)

(少額の減価償却資産又は一括償却資産の取得価額の判定)

令第133条《少額の減価償却資産の取得価額の損金算入》……の規定を適用する場合において、取得価額が10万円未満……であるかどうかは、通常1単位として取引されるその単位、例えば、機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに判定し、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事等ごとに判定する。(法基通7-1-11)