帰(けえ)りてえが口癖の経理マンのチラ裏

日常に文章を書く時間をもう少し取り入れwrite思って始めました。

在宅勤務に係る費用負担等に関するQ&Aが出たわね

お久しぶりです。


税制改正大綱の解説を続けていたんですが、資産税関連や法人税関連は細かな数字の変更が多くて、どうも筆、というか指が乗らないなあ……と思っていた最中、国税庁から指針が出され、ツイッタートレンドにも上がったホットな話題が提供されましたので、これの読み解きをやっていきましょう!


概要

在宅勤務によって手当を支給している会社がしばしばニュースで取り上げられていますよね。富士通なんかは去年の春ごろにはもうそのようなニュースが出ていた記憶があります。この寒い時期、家にいれば光熱費は嵩みますし、業務上の連絡を私物であるスマホを使ってとる方もいるでしょうから、その負担増をフォローする施策を採用する企業を増えることを睨んで、国税庁から「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」と題した質疑応答事例が発出されました。それがこちら。


パンフレット・手引|国税庁
(ページ上部、源泉所得税関係 Q&A関係 在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)(PDF/157KB))


タイトル通り、在宅勤務をする個人に対して支給する手当について、源泉所得税の面から取り扱いを示したものになっています。今回はこの事例を踏まえながら、源泉所得税はもちろん、法人税、消費税、償却資産税や実務への影響についても触れつつ読んでいきたいと思います。


源泉所得税関連

まずはこれを解説しないことには始まりませんね。今回の事例で述べているのは2点だと見ています。それは、手当の種類別の課税の要否と、一部のみ課税しない場合にはその計算方法についてです。


手当の種類別の要否

原則は問1に書いてあると相場が決まっているので、そこから引用しましょう。

在宅勤務に通常必要な費用について、その費用の実費相当額を精算する方法により、企業が従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はありません

この原則をもとにいくつか事例が示されています。


所得税を課すべき手当

  • 渡切りで支給する金銭等
  • 支給する事務用品等(現物給与)
  • 私用の通話料として支給する金銭等
  • スマートフォン本体の購入代金として支給する金銭等
  • 私用のスマホ契約に係る私用のオプション代として支給する金銭等


渡切りは実費精算という要件から明確に外れますし、私用分の会社負担については給与だろうというのも感覚的に馴染みやすいですね。一方、従業員の持ち物になってしまうPCやスマホの購入費を会社が出した場合、例えそれが業務のためであっても、全部を有税扱いとしなさい、ということになっています。一部も認めませんということですね。


機器類に関して購入費の〇〇%を会社が補助するといったような規定を整備している会社もあるでしょうが、その規定により支給する金銭等は所得税課税を免れなさそうですね。


所得税を課さない手当

  • 貸与する事務用品等の購入費として支給する金銭等
  • 業務のための通話料として支給する金銭等
  • レンタルオフィスの賃料として支給する金銭等


あくまで会社のものだけど従業員が自らの立替等で買ったPC等の購入費は、上記の従業員の持ち物になるPC等とは異なり、無税とされています。会社の持ち物である以上、この購入費は実費弁償ですからね。接待費や雑貨の購入費を一時立て替えて後で会社から払ってもらうというのと似ています。


レンタルオフィス賃料も、「自宅近くの」という要件はつきますが、その実費相当額は無税となります。自宅近くじゃないレンタルオフィスって業務上借りる意味がわかりませんから、まあ妥当ではないでしょうか。ただ「自宅近く」の定義については述べられていないので、常識の範囲内といえるかにかかってくるでしょう。


昨年の夏ごろだったか、政府がワーケーションを広めようとか言っていた気がしますが、ワーケーションのためのホテルの宿泊代はこのレンタルオフィスとは同一視できないのでしょうね。通常必要な範囲を超えたぜいたく品だから有税とするというのは他の取扱いと比べても矛盾はないんですけど、普及させたいならこういうところでもケアしなきゃダメなんじゃないのかと老婆心ながらに思います。


一部所得税を課さない手当

以下に掲げる費用として支給する金銭等のうち、一定の算式に達するまでの金額には所得税を課さないこととされています。ここはツイッターでも話題になっていたので、ガッツリ書いていきます。

  • 通話料(業務のための通話料を明細の積み上げで計算する場合を除く)
  • 電話基本料
  • インターネット接続に係る通信料
    (上記まで【算式1】により計算)
  • 電気料金(【算式2】により計算)

【算式1】

【算式2】

一定の場合には通話料の計算を簡便化できる

通話料については明細を私用・業務用に分けて積み上げる方法が原則ですが、業務のための通話を頻繁に行う業務に従事する従業員については、その総額を基礎として算式1により計算した金額とする簡便的な方法をとることができます。ただ、業務のための通話を頻繁に行うような人は積み上げで計算した方が所得税を課さないでいい金額が大きくなるでしょうから、採用して得となる場面は限定的でしょう。


1時間でも会社で勤務したらその日は在宅勤務日数に算入できない?

その従業員の1か月の在宅勤務日数というのも気になりますね。私の勤め先では1時間だけ会社で作業した後帰って在宅勤務するような勤務形態も認められていますが、1時間だけでも出社したら在宅勤務日数には算入できないんですかね? 所定労働時間の半分以上を在宅勤務した場合には1日とするなど、もう少し柔軟性を持たせた上で注釈が欲しいところです。


部屋の一部でも使ってたらその部屋の床面積全部を算入していい?

次に、電気料金について用いる算式2には、算式1に加え床面積が出てきました。ひえぇ……。肝は分子部分の「業務のために使用した部屋の床面積」ですね。厳格に解釈すれば仕事部屋のみを含めるのでしょうが、例えばパソコン部屋に置き切れないファイルを別の部屋の一部のスペースに保管した場合には、2部屋分の面積を算入していいんでしょうか。また、共働きの夫婦が1部屋で業務を行っている場合には、その1部屋は夫婦双方の勤務先において分子に算入していいんでしょうか。


書きぶりからは部屋面積の一部を算入するようには読めませんね。部屋ごとに白黒つけるように読めるので、その解釈でいいのか。部分的に使用している場合の取扱いなどもう少し注釈が欲しいです。


冷静に考えたらよく分からない「1か月の基本料金等」

1か月の基本料金や電気使用料ってどう計算するんでしょうね。スマホの通信キャリアでいえば、大手3社は月初から月末までを計算期間としています(ソフトバンクは選択制)が、電気料金はそうなっていない会社も多いでしょう。算式の理としては各請求ベースにおける料金を月単位に組み直してから按分計算をするのが筋でしょうが、事務手数が半端じゃないのであり得ないですね。職業会計人からしても嫌ですよそんなの。


水道やガスはダメですか?

事例には電気料金のみが取り上げられていましたが、水道料金やガス料金は例示には挙げられていませんでした。まあ水道は使用量の大部分が風呂か洗濯による私用だろうとしても、ガス料金はどうでしょう。給湯のみに使っていれば上記の水道料金と同様の解釈でほぼ私用といえるでしょうが、暖房としてガスストーブを使用している家庭では、在宅勤務により暖房のためのガス代が膨らんでしまう場合も考えられます。


エアコン代は無税でガス・灯油代は有税?

暖房費が在宅勤務で嵩むこととなるのにガス代は無税にしてくれないの? と従業員としては不満でしょうし、同じ暖房のための費用なのに電気料金とガス料金とで取り扱いが異なるのは公平性を欠きます。石油ファンヒーター用の灯油代も同様です。


灯油の使用量なんて測ってられない

ガス代や灯油代も一部無税になるとして、また先述の「1か月の基本料金や電気使用料」をどうするか問題が残ってるんですね。灯油は販売所から都度購入するものですから、期間ごとの使用量の把握は電気以上に難しいです。それはプロパンガスも同様です。


この指針を振り返って

目次を見た瞬間のQの少なさからある程度予期していましたが、この指針をもってすぐ実務に取り掛かれるような代物ではないですね。計算式も一見明瞭なように見えて、上で指摘したような不明点も多くありました。また追って文書が出されると思いますので、それを待ちましょう。


消費税関連

給与所得を対価とする役務の提供に該当するか否かは、消費税の課否にかかわるので非常に重要です。課税仕入れに該当するか否かという観点から、今回の指針を見ていきましょう。


課税仕入れってなんだっけ?

消費税は他の事業者に支払った消費税額を納付税額から差し引くことができますから、課税仕入れ、即ち消費税がかかるような支払いと認識する方が、課税仕入れ以外の支払いと認識することに比べて税務上有利です。


では課税仕入れの意義はというと、

事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けることをいう。(一部削除、消法2①十二)

となっています。本項の冒頭で述べたのは、括弧書きの部分です。


給与にかかわる支払いはすべて課税仕入れじゃないといえる?

たまに見る解釈誤りとして、給与課税される支払いであれば課税仕入れが一切取れないというのがありますが、そんなことはありません。その一例が、今回の指針にも出てきた現物給与です。


上記の指針では購入した事務用品等を従業員に支給する場合は給与と取り扱うとありますが、消費税ではどう考えればいいでしょう。従業員に支給する前に、その事務用品等の購入という過程があり、事務用品等の購入は条文中「資産を譲り受け」という所に該当します。「給与等を対価とする~」という括弧書きは役務の提供にのみかかっているので、本例の事務用品等の購入は事業者が事業として他の者から資産を譲り受けた場合に該当し、資産の譲り受けには特段の括弧書きがないため、課税仕入れに該当します。通達も下記の通り設けられています。

(現物給付する資産の取得)

11-2-3 事業者が使用人等に金銭以外の資産を給付する場合の当該資産の取得が課税仕入れに該当するかどうかは、その取得が事業としての資産の譲受けであるかどうかを基礎して判定するのであり、その給付が使用人等の給与として所得税の課税の対象とされるかどうかにかかわらないのであるから留意する。

精算方法で課税関係が変わる?

ただ、これはあくまで「購入した事務用品等を従業員に支給する場合」です。従業員が立替払いで購入し、後に会社に請求した場合には、会社はその事務用品等に係る所有権を一度も有したことがないとも考えられ、上記と同様に資産の譲り受けがあったものと解釈していいか疑問の余地が残ります。会社が従業員への実費精算と同時にその事務用品等の所有権を獲得し、後にその事務用品等をその従業員に支給することを決定したことと、その従業員の金銭的負担を補う形で支給したこととで課税関係は変わると考えられますが、両者をどのように区別・証明したらいいのかは判然としません。引き続き調べます。


事例ごとの課否

所得税を課さない手当で掲げた3項目

いずれも給与を対価とする役務の提供以外の役務の提供に該当しますから、国内取引であれば課税仕入れに該当します。


所得税を課すべき手当

支給する事務用品等(現物給与)、スマートフォン本体の購入代金として支給する金銭等


上述の通り、精算方法で課税関係が変わることも考えられます。


上記以外の3項目


私用の通話料等を対価とする役務の提供は給与等を対価とする役務の提供に該当し、課税仕入れには該当しないでしょう。現物給与と異なり、従業員が受ける役務の提供に先駆けて会社に課税仕入れが生じる場面は考えにくいです。


一部所得税を課さない手当

無税の部分は、会社が受ける役務の提供で、かつ、給与を対価とする役務の提供には該当しないため、課税仕入れに該当するでしょう。有税の部分は、給与を対価とする役務の提供に該当するため課税仕入れには該当しないでしょう。


法人税関連

この指針のいやらしい所として、企業が「従業員に」在宅勤務手当を支給する場合の取扱いに終始している点があります。役員に対するものは射程外なんですね。


ということは、役員に支給する在宅勤務手当は、従業員に対するものだったら無税とされていたものでも有税とされてしまうおそれを孕んでいます。そうすると何に影響するのかというと、役員給与の損金不算入額が生じます。有税というのは給与として取り扱われるということで、毎月実費精算みたいなことを行った挙句有税とされてしまっては、各月の給与が変動することとなります。即ち定期同額給与に該当せず損金不算入としなければならない部分が生じることに繋がります。金額としては大したことないでしょうが、実務上は非常に手間ですね。


償却資産税

償却資産税は、資産が所在する自治体に申告することとなっており、在宅勤務に当たり従業員に貸与している事務用品等は、その従業員の自宅の所在地の自治体に申告する必要があります。10万円未満の資産で一時の費用としているもの、20万円未満の資産で一括償却資産として経理しているものは償却資産の申告対象とはなりませんので、その辺りの規定をしっかり利用して償却資産を圧縮し、申告実務や納税に係る負担を軽くしましょう。


実務について

目下最も厳しそうなのは「一部所得税を課さない手当」の算式関連のところですね。会社は源泉徴収義務者である以上、床面積等の計算基礎が正しいもであるかある程度は調査する義務があると思われるところですが、どの程度頑張れば要請に応えたことになるんでしょうか。誤りも多いでしょうし、現状だと利用しづらい算式です。


ちょっと深読み

問1を読んだ時、「一定の金銭」という文言が気になりました。これは例え在宅勤務に通常必要な費用を実費精算したとしても、この「一定」から外れれば所得税を課さない手当から除外される余地が残っています。


じゃあ一定って何なんだというと、出社した場合にはかからない、在宅勤務において生じる固有の費用か、それに準ずる費用の精算に係る金銭を指しているのだと勝手に解釈しています。いずれにしても、在宅勤務に通常必要な費用を無制限に認めているわけではないという点は留意しておかないと、判断を誤ってしまいそうです。


あとがき

今回の指針から断言できることはまだまだ少ないので、この記事も2020/1/26現在においてはまだ未完成です。今後新たな情報が入り次第修正を施した上でお知らせしますので、よろしくお願いします。