帰(けえ)りてえが口癖の経理マンのチラ裏

日常に文章を書く時間をもう少し取り入れwrite思って始めました。

儲けが5円になった場合の予定納税から考える財産権と租税法律主義の関係

記事を書くに至った経緯

会長の配信を見ていたら、所得税の確定申告後間もなく1回目の予定納税がありカツカツだという話が出てきました。儲け5円でも取られると言っていましたが、それは減額申請の手続きを取れば何とかなるとして、確定申告による納付以外の納付、いわゆる中間納付等と財産権との関係を考えるのにいい例だと思い、書き始めました。


なので今回は実務的な取扱いではなく、租税の基本的な思想という観点から書いていきたいと思います。(一応各租税における中間納付に相当するものの制度概要を軽く触ります。大半の人には非常にどうでもいいことですが、大半の人は興味すら湧かないこの記事の本旨の前では些末な問題です)


中間納付等の目的

中間納付等には、課税する側とされる側、そして理論上以下のメリットがあるため採用されていると考えられます。

  • 課税する側-租税債権の確定を待たずに金銭を収入できる
  • 課税される側-一回当たりの納税額を小さくすることにより資金繰りを平準化できる
  • 理論的な側面-納税は所得等が発生した都度行われることが理想である

中間納付等の取扱いと、各租税法における中間納付等に相当する規定

中間納付等により支払った額は、所詮は租税債務の確定前に払ったもの、仮払の状態に過ぎないので、その額は確定申告や年末調整といった精算時に年税額等から控除し、控除しきれなかった場合には還付を受けることができます。


所得税-予定納税

前年分の確定申告による納税額を基礎とした金額(=予定納税基準額)が15万円以上であれば、その1/3に相当する額を、その年7/1-7/31と11/1-11/30の2回に分けて納付する義務があります。


ただし、一定の日の現況によるその年分の確定申告による納税見積額が予定納税基準額に満たないと見込まれる場合には、その居住者は税務署長に対し減額申請をすることができます。

法人税-中間納付

内国普通法人は、原則として6月を超える事業年度において中間納付をする義務があります。ただし、前事業年度分の確定申告書に記載した金額を基礎とした金額が10万円以下である場合はその義務を免れます。


中間納付額の計算方法には、①前事業年度の実績を基に計算する方法(前期実績方式)と、②その中間納付に係る6月間を一事業年度とみなして確定申告と同様に計算する方法(仮決算方式)のいずれかを選択することができます。


中間申告書の提出期限までにその提出がなされなかった場合には、前期実績方式による申告書の提出がその提出期限においてあったものとみなされますので、実務上中間申告書を提出することを選択している企業は稀です。

消費税-中間納付

事業者は、原則として1月、3月又は6月の期間において中間納付をする義務があります。ただし、前課税期間の確定申告書に記載した金額を基礎とした金額が24万円以下である場合はその義務を免れます。


中間納付額の計算方法には、法人税と同様に ①前課税期間の実績を基に計算する方法(前期実績方式)と、②その中間納付に係る期間を一課税期間とみなして確定申告と同様に計算する方法(仮決算方式)のいずれかを選択することができます。


中間申告書の提出期限までにその提出がなされなかった場合も、法人税と同様に前期実績方式による申告書の提出がその提出期限においてあったものとみなされますので、実務上中間申告書を提出することを選択している事業者は稀です。

財産権と租税法律主義の関係

財産権って?

財産権とは、人が財産を所有する権利のことです。日本国憲法の規定により国が国民に保障しています。共産主義は貧富の差を排除するための手段として私有財産の制限を支持するものと一般に解されますから、そういった思想との決別が表れているものです。

財産権は、これを侵してはならない。(憲法29①)

租税法律主義って?

国は法律なくして国民に課税することはできないし、国民は法律によらず課税されることはないという原則です。日本国憲法の規定により国が国民に保障し、国を拘束するものです。租税の徴収は国民の財産権への介入に当たるため、租税の徴収は財産権の例外という位置づけとなります。

国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。(憲法30)

あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。(憲法84)

中間納付額の計算方法を選択できない世界線はどうなる?

所得税の予定納税では減額申請が、法人税及び消費税の中間納付では前期実績方式に代えて仮決算方式が認められています。業績等が前期に比べて大幅に落ちた場合でも、その落ちた後のベースで中間納付額を計算できる余地が認められているんですね。


もしこれらの規定がなければ、各納税義務者は、業績が落ちた後等でも不相応に高い税額を中間納付として納めなければならないこととなります。財産権を原則とし、租税の徴収を例外として位置付けた場合、国は例外の領域をできるだけ小さいものに保つ努力をすべきものと考えられます。


事業規模が直前期と同等であれば、前期実績方式による算出金額と仮決算方式によるそれとで大差はないと考えられますから、財産権を不必要に犯していないといえます。一方で業績が落ちた場合等に前期実績方式しか認めなければ、財産権に不当に介入している(※)と判断されかねず、かかる中間申告の規定が違憲と判断されるおそれが考えられます。


したがって、中間納付義務等は租税に係る債権債務の確定前における金銭給付を求めているため、状況によっては財産権への介入が不当に大きくなるおそれを孕んでいるものの、納税者にその算出方法の選択を租税法に規定することでかかる問題の排除を企図することにより合憲性を持たせる形にしているということができます。


---よだん---

納税者が中間納付を意図的に多くした場合は見過ごしてもいい?

ところで、仮決算方式による算出金額が前期実績方式による算出金額より大きい場合にも、中間納付額を前者の方法により計算して差し支えないでしょうか? 国が不当に高額な租税としての金銭給付を要求することが財産権の侵害に当たる(上記※)ことは疑いようがありませんが、納税者の選択でより多額の納税を行う場合は、一見問題がないようにも思えます。


実はこれも問題がある行為と理解されています。というのも、年税額等が中間納付額等に比べ小さくなった場合、納税者にその差額は還付されますが、その差額に一定の割合を乗じて計算した金額を還付加算金として付加されます。


これは納税者が納税を期限までに済ませられなかった場合、利子税や延滞税が課されるのと表裏の関係で、国にも徴収してから還付する日までの期間に応じて利息相当を付加する必要があるためです。


還付加算金の計算に用いる割合は、短期の銀行による貸付金利として財務大臣が告示した割合+0.5%です。令和3年における割合は、令和2年11月30日に告示された0.5%+0.5%で年1.0%となります。計算式からもわかるように、この割合は市中における金利より高めに設定されますので、お金がある納税者にとっては、敢えて中間納付を多めにすることで多額の還付加算金を得ることができます。


還付加算金の収入を租税のマイナスと捉えた場合、これでは納税者間における余裕資金の多寡と、年間通して同程度の事業規模であっても特定の時季に業績が著しく変動する事情の有無という、担税力とはおよそ関係のない所で税負担に差異が生じることとなってしまい、不公平です。


まとめると、納税者の意思で必要以上に多額の中間申告を行うことは財産権と租税との関係性においては問題とならないものの、租税法の基本原則である租税公平の原則に反するといえます。


そのため仮決算方式は、その算出金額が前期実績方式による算出金額を超える場合には選択できないこととなっています。